【テニスボールを押す作業】息子の出産に立ち会った時の話
我が家の息子ももうすぐ2歳。特に大きな病気も困難もなく(息子には)今日までやってこれたのは本当にありがたいことです。
思い起こせば私は我が子の出産に立ち会ったのですが、出産の立ち合いというものは想像とは色々違っていました。
出産当日
うちの嫁は初産だったんですが、朝9時くらいに破水して当日19時頃に生まれました。10時間もかかるのかと驚いていたら、初産だともっと時間が掛かるのが普通であるらしく、うち両親には朝の時点で連絡しましたが生まれるのは翌日だろうと考え、見舞いを翌日に予定したほどでした。実際初産であれば24時間以上かかることもざらであるらしく長期戦を覚悟しておいたほうが良さそうです。長ければ長いほど奥さんはもちろん大変ですが立ち会うつもりの旦那さんもかなり大変です。
うちは朝、嫁が破水してから自家用車で病院に行きました。そのまま嫁は病室に入り、私はテニスボールや赤富士を書くための色紙を用意してくれと頼まれ100均やらいろいろ走り回り、病院に戻ったのは昼すぎだったと思います。
ちなみに赤富士とは陣痛が始まった妊婦が書いた赤富士の絵のことで、飾っておくと子宝に恵まれるというジンクスがあるそうです。嫁いわく子供がなかなかできない友達のために書いてあげたい、とのことでした。
そんなこんな必要なものなどをそろえ嫁のいる病室に入ると嫁に特に変わった様子もなく、
「おつかれ」
なんて全く普通のテンション。痛かったりするの?いや特に?みたいになやりとりで、本当に子どもが生まれそうなのか疑わしくなるくらいでした。
時折看護師さんがやってきて
「子宮口も開いてないんでまだですねー」
と言って去っていくのを繰り返し、そこから16時くらいまで「暇だねー、こんなんで生まれるんかねー」なんてのんびりしゃべっていると看護師さんに、
「そろそろ促進剤いれますねー」
と言われそこからは出産らしく(?)嫁も苦しみはじめました。
破水しているとある程度早めに出産する必要があるそうなので、陣痛促進剤を使うとのことでした。
そしてそこからは私も一定間隔で嫁にテニスボールを押し付ける作業に駆り出されることになるのでした。
陣痛はある程度の間隔でやってきては去っていくのですが、そのピーク時に尾てい骨のあたりをテニスボールで押してもらうと多少は楽になるのだとか。なぜテニスボールかというと固さがちょうどいいのだそうです。
その後、陣痛促進剤のおかげか結構がっつり陣痛がやってくるようになり、嫁もどんどん苦しんでいくんですが子宮口はちっとも開きません。数時間前まで全く余裕だった嫁も17時を回っても看護師さんの「まだですね」の言葉に絶望してました。
なんせ男からしてみるとどんな感じなのか全くわからないのでただただ彼女が望むようにしてあげる以外ないのですが、これくらいになってくると陣痛の周期を教えてくれる機械が取り付けられ、呼吸をキープしやすいように一定の速さの呼吸音を流れているという環境が作られていました。
そのおかげでテニスボールを押すタイミングや意識すべき呼吸のペースが私にもわかるようになっていました。流れている呼吸音に合わせて私も呼吸することで嫁に一定の呼吸を意識させ、陣痛が来るとテニスボールをただただ押し付けていました。
実際、痛いこと、苦しいことを耐える時「鬼滅の刃」ではないですが、経験上呼吸は本当に大事だと思います。奥さんの呼吸が乱れていたら、思い出させてあげるといいかもしれません。ですがかなり状況はシリアスなので「全集中の呼吸だ」なんてふざけるとぶん殴られるまであるタイミングなので注意が必要です。
参考:出産の目安
子宮口の開き
1cm
この時期はまだ陣痛による痛みもあまりなく、生理痛のような痛みがあるという人もいれば、全く痛みを感じない人もいます。赤ちゃんが下に降り始めたタイミングと考えておけば特に焦る必要はないです。また、子宮口が開き始める時期には個人差があります。
2cm
この時期も個人差はありますが、まだ本格的な陣痛は開始していないことが多いでしょう。中には、前駆陣痛という分娩が開始する前の不規則な陣痛を感じる人もいます。赤ちゃんがゆっくりと下に降りてきている状態です。
3cm
この時期になると陣痛が規則的に1時間に6回程度起こる方もいれば、まだ陣痛が始まらないという方もいます。陣痛が始まり、間隔が短くなったら入院→分娩開始となることが多いです。この頃から赤ちゃんは自分の体を丸く縮め、骨盤の入り口に収まり始めている状態です。
4~6cm
個人差もありますが、陣痛は徐々に間隔が短くなり、痛みも強くなってきます。赤ちゃんは顎を胸に引き付け、前屈した状態で骨盤の中に入ってきます。
7~8cm
陣痛の間隔は3~4分とさらに短くなります。赤ちゃんは狭く曲がりくねった産道を通るために、回転しながら下降していきます。
全開(9~10cm)
この頃になると陣痛の頻度は1~3分とさらに増加し、痛みも最も強くなります。赤ちゃんは身体を回転させ、さらに下に降りていきます。
https://feature.cozre.jp/73794
立ち会い
陣痛促進剤を打ってもらってもちっとも分娩室へ行きましょう、とならずただただ叫ぶ嫁にテニスボールを押し付ける作業を繰り返していました。陣痛が等間隔で起こりはじめてからは嫁はリアル苦しみ続け、18時を回るころには半べそかいて「もう嫌だ」と言い始めるレベルに。
正直なところはじめは苦しむ嫁が心配になるのですが、陣痛というものははじまってから出産までの間段々と間隔が短くなっていきます。もちろん時間がたつにつれて痛みも激しくなっていくんでしょうが…、
「痛い痛い痛い痛い痛い!!!」
~数分後~
「痛い痛い痛い痛い痛い!!!」
息子の出産はコロナ禍前だったので普通に立ち合う予定で数日前から心のスタンバイしていた私ですが、この状況2時間もやっていると飽きて(慣れて)きました。
一応言い訳させてください(苦笑)これにも理由があるのです。
さきほども言ったように痛みに対峙する時呼吸を整えるのはとても大事です。
ただ私には何の痛みもありません。ただただ心を無にしてテニスボールを押す作業を繰り返しているだけなのです。その結果激痛と疲労でどんどんとテンションの高まる嫁と反比例するかのように私の心はどんどんと落ち着いていきます。
それもそのはず、なんせ一定間隔で深い呼吸を繰り返し単純な動作を繰り返すのですからこれはもはや瞑想の手順なのです。頭の片隅で、
「うわぁ…これ何時間やればいいんだ…とダルいなぁ…」
となんて考えももちろん浮かびますが、それすら気にならないほど心がどんどんと無の境地へ。いつしか心は一点の濁りのない水面のような落ち着きを手に入れてしまうのです。
嫁から私がどう見えていたかわかりません。ですが、こちらの様子を見る余裕は無かったように思います。どんどんフラットになっていく私の心の中を見せないように気を付けながら、嫁を励ましただただ深呼吸とテニスボール押しを繰り返しました。
私がテンション的に完全に瞑想レベル、チルアウトな心境になったころ19時過ぎくらいだったと思うのですがやっと「分娩室に行きましょう」と声がかかりました。
その頃になると苦しみ続ける嫁に対してむしろリラックスしているくらいのマインドになっている自分自身が若干申し訳なくすら思えていました。
などと思っている間に嫁が分娩室に運びこまれ、私もついていくのですがちょっと待っててくださいね、と言われたまま分娩室に入れられたまま嫁も私も放置。
さほど長い時間ではなかったのかもしれませんが、嫁は陣痛を繰り返し苦しんでいるので放置されている感があるとさすがにちょっと大丈夫か??となりました。
おーい、と色々見まわすのですが、誰もいません。後から聞くとほぼ同時に生まれていた赤ちゃんがいたということでそちらに人員が取られていたようです。
しばらく待つと、旦那さんは外で待っててください、と今度は私だけが分娩室から締め出されます。
これがまた長い時間待たされます。
素人目から見るとさすがもうすぐにでも生まれそうな雰囲気に見えましたが、まぁ向こうはプロだしここからまた意外と時間がかかったりするんだろうなぁとぼんやりと待つことにしました。なんせ初めての立ち会いですしね。
おそらく10分ぐらい経ったあと、突然扉が開いてこれ着て入ってきてください、と呼ばれます。
この辺になるとあんまり覚えてないのですが、無菌室に入る時に着るような帽子と上着を渡され、上着をどうやって着るのかわからずまごまごしていると「まだ?」みたいな感じで看護師さんに言われたのを覚えています。
いやいや、先に渡しといてくれよ、いや先に着かたを教えといてくれよ…と心で愚痴りながらもらった装備をなんとか身に着け中に入るとおお、出産っぽい感じ。
こちらに頭を向けM字開脚させられた嫁が分娩台の上にいるのがわかります。
さっきとはうってかわって4,5人のスタッフがバタバタと歩きまわり、待たされていた時にはなかった機器が色々運びこまれていて…なるほど、こんな感じで生まれるのか…と。
部屋を見まわした瞬間でした。
嫁の両足の間からツルッと息子が生まれてきました。
ハァ?????
何それ??そんな生まれ方なん???うそやろ???
まるでウォータースライダーから滑ってきたようになんなら勢いつけてバウンドして出てきたくらいに見えましたけど???
息子らしきなにかが!
「おぎゃーーーーーー」
今滑り出してきた、ぬめっとした何かが息子であったことを証明する叫びが部屋中に響きます。
数時間の深呼吸で仏の域まで行けたんじゃないかと思われた私の心もさすがにうろたえました。
お医者さんが色々言ってくれていましたがちっとも頭に入ってきません。理解したのは母親も健康、息子も健康で無事に出産を終えたようです。
出産手前に、がんばれ…ッ…がんばれ…ッみたいなあるじゃないすか、ドラマで。ほら、赤ちゃんの頭が出てきたよ!もう少し!みたいな。
このイメージはラマーズ法(ヒッヒッフーの呼吸のやつです)のもので、うちの嫁が行ってた産婦人科はラマーズ法で産まない産婦人科ということは聞いていたんですが…しかしここまでイメージと違うとは…。
いやいやいやいやいやいやいやいや…そこじゃない、そこじゃないのよ、衝撃だったのは。
このライブ見るために10時間待ったんやで?いや、立ち会ったし誕生の瞬間も確かに見ることができたけれどさ…。
いや、実際生まれてくれてほっとして幸せな気分にはなりましたけどね、それよりもなによりも驚きのほうが大きいのが正直なところ。
子供ってそんなツルっと出てくるもん???
初産って大変なんじゃないの???
立ち会った時間は恐らく30秒でした。
いや、立ち会ってねぇ…これは立ち会ってねぇよ…。
いや、立ち会ってるんだけど!立ち会うという行為に含まれるはずだった何かが欠落している気がする。
まぁ、別に全然いいんだけどね、問題なく生まれてきてくれたし。
でもさ、思うじゃん…なんかもっと…感動できるものかと…。
せめて!もう3分でいい。心の準備が欲しかった。
まぁ、ダンナの立ち位置なんざこんなもんなんだろうけれど。
そんなわけで母子ともども健康、つるっと生まれてきた直後の息子がこちらです。
今見るとなんか怒ってますかね?w
終わってみるとどっぷり疲労感がありましたが、私は産んでないですからね。10時間でも結構大変だったので24時間以上とかかかるなんて妊婦さんにとってはもう霊光波動拳の継承レベル(古い)でしんどいに違いないです。
息子が生まれ、嫁の友達がいち早く駆けつけてくれたのですが、嫁は検査やらなんやらで友達と直接会うことができず生まれたばかりの息子とともに私がご挨拶することに。
「ダンナ似だねー」その頃から断言されましたが、確かに息子は私似。こんな人かどうか定まっていないような(※定まっている)幼体でよく似てるとかわかるものだ、と嫁の友達に感心しました。
嫁は部屋から出られなかったので待合室と電話で話すというなんだか別の施設を思い起こすような光景になりました。
そこからはよく覚えていませんがとにかく私はもう帰れ、ということで帰らされて気づくと腹が減っていたので帰り道で営業していたびっくりドンキーに入りました。
その時のチーズバーグディッシュがやけにおいしく感じたのはよく覚えています。
余談:疲労と混乱もありましたが、実はこの頃私はまだおさな子をかわいいと思える能力を獲得していません。この能力が後々身につくことは後で知りました。なので我が子が生まれた時点では子供が生まれると周りの反応ってこうなんだー、という俯瞰した心持ちなのでした。
これからお子さんが生まれる方、特にダンナさんに参考になればと書いてみました。
我が子が生まれてもうすぐ2年。2年とは言え色々ありましたが、なかなか子供がいる生活って良いものです。もちろん失ったものもありますが、子供を持つ良さというものは理解できた気がします。さすが人類の歴史がちゃんと続いているわけです。
もちろんこう思えるのも嫁の頑張りのおかげであるので、「子育ては手伝うんじゃねぇ、二人でやるもんなんだ!」とTwitter民に怒られないように私も子育て頑張っていきたいと思います。
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